虐殺器官

結末にさしかかった頃、ビンラディンの暗殺が報じられ、ますます虚構がリアリティを浸食してしまった感が強まった。作者がパイソニアンであることに気付き、親近感が増してしまった。後半でパイソン・ネタが炸裂する。スペイン宗教裁判、シリー・ウォーク、ホーリー・グレイルの黒騎士……。

先月のブクログ

bibliotheque de Kaz.
2010年06月
アイテム数:3
小津安二郎と茅ケ崎館
石坂 昌三
06月27日{book['rank']

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12日、13日は青空文庫のオフ会および東京国際ブックフェアhttp://www.bookfair.jp/)。

ここに詳細は記しませんが、やはり散財してしまいました(ブックフェアでだけならともかく、何気なく寄った丸善でも・・・)。

写真左は、ボイジャーのブースで青空文庫工作員の大久保さんがレクチャーを行った後に、テクノロジー・ジャーナリストの大谷和利さんがiPhoneの話をされて、面白かったので著書にサインをいただきました。iPhoneは基本料金があれなので、すっかりあきらめていたのですが、お話しを伺った後はMNPで乗り換えそうな自分が怖いです。

青空文庫オフ会では、「井上円了http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E5%86%86%E4%BA%86)の入力・校正をしよう!」という話題で盛り上がりました。

写真中央は、翌日、ブックフェアの「週刊金曜日」ブースでもらった雨宮処凛さんのサイン(本は小林多喜二の「蟹工船」)。このブースは佐高信さん(取締役?)が必死に定期講読を呼びかけていて、佐藤優石坂啓雨宮処凛が詰めていたなあ。

写真右は何気なく寄った丸善で入手してしまった、「不思議の国のアリス」の仕掛本(Robert Sabudaによる)。あまつさえ、そのフロアでこんなものに遭遇→http://www.maruzen.co.jp/Blog/Blog/maruzen02/P/3045.aspx
前日、はる書房(http://www.harushobo.jp/)で催眠商法にひっかかり(うそ)、アンティークの器を購入したばかりなのに、綺麗なお姉さん(たぶん中国人)の「これ沈香でできているんですよ。いい匂いでしょう?」などという甘言は危険です。それ以前に、木彫りの興福寺・阿修羅像や東寺・帝釈天象を私にみせてはいけません(それぞれ10万円ぐらい)。もう少しで「カード使えますか」と訊くところでした。

あ〜、あぶなかった。

「架空の伝記」からの一節。取り敢えず、訳してみた分だけアップしてみる。

パオロ・ウッチェルロ 画家

Paolo Uccello Peintre

マルセル・シュオッブ Marcel Schwob

ロクス・ソルス








 本名はパオロ・ディ・ドーノであった。だがフィレンツェ人は「ウッチェ※(小書き片仮名ル、1-6-92)リ」、つまり「鳥のパオロ」と彼を呼んでいた。彼の家を埋め尽くしていた莫大な数の鳥や獣の絵のせいだ。というのも、彼はあまりに貧しかったので、動物を飼ったり、全然知らない生き物を手に入れたりすることができなかったのである。また、こういう話さえある。パドヴァ四大元素フレスコ画を制作したとき、大気の属性としてカメレオンの図像を描こうとした。だが一度もそれを見たことがなかったので、口をぽかんと開けた、腹の出た駱駝を代わりにかいた(ところで、ヴァザーリの解説によれば、カメレオンとは乾いた小さな蜥蜴に似ており、それにひきかえ駱駝とは大きくて無様な獣である)。というのも、ウッチェ※(小書き片仮名ル、1-6-92)ロは、ものの現実味などちっとも気にしておらず、ものの多様性、線の無限性に関心があったのだ。だから、青い野原、赤い都城、炎のように真っ赤な口をした黒檀色の馬に乗り、黒い鎧をまとった騎士、天の全方角に向って光線のように差し出された槍を描いた。しかも彼には「マッツォッキオ帽」を素描するならわしがあった。これは布で覆われた木の輪っかで、頭に載せ、垂らした布地の襞が顔をすっぽりくるむようにするのである。ウッチェ※(小書き片仮名ル、1-6-92)ロはそれを尖ったのや、四角いのや、切子状に表現し、透視図法が示すあらゆる局面に従って、ピラミッド状や円錐形に配置し、その結果、「マッツォッキオ帽」の襞の中に組み合わせの世界を発見した。事実、彫刻家のドナテ※(小書き片仮名ル、1-6-92)ロは彼に云ったものだ。「ああパオロ、君は影のために実体をなおざりにしているね!」

 しかしは倦まず弛まず仕事を続け、円を集合させ、角度を分割し、あらゆる側面からあらゆる生き物を調べ、ユークリッド幾何学に関する問題点の解釈を、友人の数学者ジョヴァンニ・マネッティに訊きに行ったりした。次に彼は引きこもり、羊皮紙と版木を点と曲線で埋め尽くした。建築の研究には延々と没頭し、それに関してはフィリッポ・ブルネ※(小書き片仮名ル、1-6-92)レスキの助けを借りた。だが、建築物を造るつもりは毛頭なかった。土台から軒蛇腹までの線の方向、それらが交錯点までまっすぐに収斂する状態、穹窿が頂上の要石に至る丸み、長い広間の端につながっているように見える天井の梁が扇状に短縮されている状態などに注目するだけだった。また、あらゆる動物とその動作、人間の仕草を描き、それらを単純な線に帰した。

 さて、金属と有機物の混淆についてじっくり考え、窯でそれらが溶解する様をこっそり観察して金を発見しようとする錬金術師に似て、ウッチェ※(小書き片仮名ル、1-6-92)ロはあらゆる形を形の坩堝るつぼの中に注ぎ込んでいた。形を結合し、組み合わせ、融合し、それ以外の形が所属するような単純な形に変換させようとした。これこそ、パオロ・ウッチェ※(小書き片仮名ル、1-6-92)ロが小さな家に閉じ籠もって錬金術師のように暮した理由なのだ。







翻訳の底本:Vies Imaginaires(1986)

   上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。

翻訳者:ロクス・ソルス

2008年6月29日ファイル作成